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概要

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6 高知論叢 第114号要するに,営業の自由を守る反独占の思想はなかったのかどうか,および,その意義を検討する。【退職記念号特別補足1 】横川和博教授(師,正田彬)の当初の専門は,商法と独占禁止法,とりわけイギリス競争法であって,それとの関連で,イギリスの営業制限の法理も研究されていた。その第Ⅰ論文は,横川和博「英国コモン・ローにおける競争制限的法理の検討序説」『明治大学大学院紀要』第19集, pp. 283-296(1981),という論文で,優れた研究である。この研究における特徴的意義を一つ挙げれば,次のようなことである。すなわち,営業制限の法理の諸判例を歴史的に捉えながら考察した結果,『結果的に独占容認の法理となってゆく諸判例の,その基底にある考え方の問題点に,ある程度接近しえたのではないかと考える。とりわけ,競争の維持と公共の利益との関係,公共の利益における消費者の利益の位置づけなど,戦後の競争維持法制の検討に欠くべからざる問題に,私なりの示唆が得られたものと考える』(Ib. p. 283),と現代競争法を考えるうえで,解釈法学に隔たるのではなく,まずもって基礎理論の研究の重要性を考えさせられる意義を有しているのである。次に,独占容認へと傾斜した判例であるNordenfelt Case[1894]を中心に,とりわけ4つの問題を提起している。すなわち,①契約当事者の利益,②公共の利益,③公共の利益と消費者の利益,④第三者との関係,である。このうち④の第三者との関係について以下のように指摘している。『営業制限契約と公共の利益をめぐる問題で真に問うべきは,第三者との関連であるべきなのでだが,しかし,コモン・ロー上は,第三者はそうした契約の無効を訴えることができなかったのである。ここに,公益侵害を理由として営業制限契約が無効とされた事例がほとんどないもう一つの理由がある。そして,このことが,後に反トラスト制定法が必要とされた理由の一つともなってゆくのである』(Ib. p.292),と指摘し,それが氏のその後の研究につながっていくのである。最後に,『営業制限の法理の問題性について,前述したように強く認識するところであるが,それが市民間の自由の問題としてたたかわれてきた経緯,判例の積み重ねの重みのようなものを感ぜずにはおれないのである。それは,戦後,制定法が存在するようになっても,法概念の解釈をめぐって,あるいは,制定法とそれのカバーしない分野との相互作用を通じて,今なお影響力をおよびしているといえよう。ともあれ,昨今,ますます技術的になる競争概念を,自由の問題として再びとらえなおしてみることの必要性もここで痛感されることである』(Ib. p. 294),と私人相互間の闘いが,判例法として後世に伝わっていったことを論証した重要な意義があったのである。そのことは,経済史家岡田与好氏が提起したいわゆる「営業の自由論争」(1969年3月)では,判例法理の意義を立証することができなかったのである。というのも,論争での彼らは,イギリスの判例原典そのものに当たっておらず,そのことが理由の1 つでもある 。なお,本稿でも,この論文を参考にさせていただいた。