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概要

kouchirouso_114_20180329

除権判決と善意取得者の権利 141て争った。第一審(東京地判平成10年3月26日民集55巻1号9頁)は,次の理由から,X のA に対する請求を棄却し,Y に対する請求は認容した。すなわち,Y およびA の第一の主張については,本件手形の第一裏書には,A のものと異なる記名印とA の代表者の個人印とが押捺されているから,A 名義の第一裏書がA の意思に基づいてなされているとはいえないとして,X のA に対する請求を棄却した。第二の主張については,入手経路の説明に不自然な点はなく裏付資料も得ていること,本件手形の形状には第三裏書の抹消も含めて特に異常があるとはいえないこと,X はC に対して,Y の信用に相応した割引金を支払っていること等の事実から,X が本件手形を取得するにあたって,本件手形が盗難手形であることについて善意であったと認定し,また,振出確認や裏書確認をすべきであったといえるほどの事情もないため,重大な過失があったともいえないとして,X の善意取得を否定するY の主張を退けた。第三の主張については,X が除権判決前である平成9年4月21日に本件手形上の権利を善意取得しているとしたうえで,次のように判示した。すなわち,「除権判決の確定により,A は本件手形上の権利を行使するための形式的資格(所持)を回復し,Y は除権判決確定後に悪意又は重大な過失なく手形を取得した者に対しても支払いを拒絶しうるものである。しかし,除権判決は,その確定前に喪失手形を悪意又は重大な過失なく取得し,手形上に署名した者に対して手形債務者としての責任を追求し得た者の実質的権利までも消滅させる効力を有するものではない,と解されるから,X が右除権判決前に本件手形を善意取得し右除権判決確定当時本件手形を適法に所持していた以上,右除権判決も,X の有する実質的権利に何ら影響を及ぼすものではない」とした。続けて「当裁判所は,被告らの引用する判例(最高裁昭和47年4月6日第一小法廷判決・民集26巻3号455頁)の趣意は,適法に振り出された手形の所持人がその手形を喪失して公示催告の申立てをした場合,除権判決の確定前に当該手形を善意取得した者が現われ,したがって除権判決により権利行使の資格を回復した手形喪失者との間に権利行使の資格の競合状態が生じた場合であっても,同様に妥当するものと考えるものである」と判示して,X のY に対する請求を認容した。