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概要

kouchirouso_114_20180329

除権判決と善意取得者の権利 149の効力である。したがって,除権判決によって申立人にはあたかも証券を所持するのと同じ地位が認められるとはいえ,裏書の連続する証券を所持するのと同じ地位までは認められないと考える。それゆえ,除権判決によっても申立人は権利推定を受けるものではないように思われる。しかしながら,もう一つの作用である権利行使の要件としての作用,すなわち形式的資格としての作用は認められるべきである。すなわち,除権判決の正本の所持が,有価証券に代わって形式的資格となると考える。ここに形式的資格とは,実質的権利者であっても,これを備えない限り,手形金の請求はできないという意味である。そもそも証券を呈示しなければ権利を行使することができないとされているのは,手形債務者への通知またはその承諾なしに,手形は転々流通するものであるから,手形債務者は義務を履行すべき時点で誰が権利者であるのかを確知することができないので,これを容易にするためである(伊沢孝平「手形の呈示と受戻」鈴木竹雄=大隅健一郎編『手形法・小切手法講座第4巻』(有斐閣,昭和40年)151頁)。このことは除権判決がなされた場合にもあてはまる。それゆえ,除権判決以後は,証券に代わって除権判決の正本が上記役割を果たすと考える。また,最高裁昭和47年判決や本判決のように,除権判決の言渡しよりも前に手形を善意取得していたことを主張・立証することにより,権利を行使することができるという立場に立った場合には,実質的な権利の証明を権利行使の要件として解することになる。しかし,その成否を判定すべき機関が存在しない裁判外で,どの程度の証明をすれば権利行使の要件を充たしたことになるのかという困難な問題が生じるであろう(倉沢康一郎「手形所持人の形式的資格」『手形法の判例と論理』(成文堂,昭和56年)181頁参照)。除権判決優先説から善意取得優先説に対して,次のような批判がある。すなわち,理論的な問題として,権利と資格とが分属することになり,手形義務者は,一方で除権判決を得た者に対しては実質的無権利者たることを理由としてその支払いを拒むことができ,他方で善意取得者に対しては手形を所持していないことを理由としてその支払いを拒むことができ,結局何人に対しても支払いをなす必要がなくなるとされる(竹田省「喪失せられたる手形の除権判決」『商法の理論と解釈』所収(有斐閣,昭和34年)696頁)。この点,善意取得者は,