ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

kouchirouso_114_20180329

150 高知論叢 第114号除権判決の言渡しよりも前に手形を善意取得していたことを主張・立証することにより,権利を行使することができるという立場では,上記批判は依然として批判として残ったままである。上記批判に対して,善意取得者が権利を行使するために,とくに形式的資格は必要ではないことの説明が必要である。これに対して,除権判決の正本の所持が形式的資格になると考えれば,善意取得者が権利を行使するためには除権判決の正本の所持が必要ということになる。それゆえ,善意取得者には除権判決を得た者に対する正本の交付請求権が認められるべきである(高田晴仁「判解」平成13年度重要判例解説(ジュリスト1224号)110頁(平成14年))。このように考えれば,上記批判は,善意取得者が正本を所持するまでの間について当然のことを述べているだけであって,批判にはならない。さらには, 除権判決の正本を所持している手形金の請求者には取引の観念において真の権利者であると信じさせるような外観が生まれるものとすれば,民法による手形債務者の救済の余地も広がるであろう。以上の理由から,善意取得者の権利行使の方法として,自己の実質的権利を証明するとともに,形式的資格として除権判決の正本の所持が必要であると考える。したがって,善意取得者の権利行使の方法について,「無効に帰した手形を所持する実質的権利者は,除権判決前にすでに手形上の権利を取得し,除権判決の当時手形の適法な所持人であつたことを主張,立証することにより,その権利を行使することができるものと解するのが相当である」とする最高裁昭和47年判決と同様に解していると思われる本判決には賛成できない。