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概要

kouchirouso_114_20180329

イギリス法独占放任の時代の営業の自由からBrexit 時代への競争法の展望 29最も重要なことは,「互恵性」に言及していることである。既に述べたとおり,Sargant L. J. の判決は,イギリスにおいては,先見性があったのである。この「互恵性」に関して,正確ではないが,次のように大まかに言い換えることもできる。互恵性が,事業者間の間である場合には,カーテルや企業結合などの問題が生じ,反対に,事業者間の間でそれがない場合には,営業制限,不公正な取引,および市場支配力の問題が生じ得るのである。さらに,積極性に関して,EU 競争法は,この協調行為の認定するに当たっての考慮事項を,判例を総合すれば次のように考えられている。『①事業者間に何らかの積極的な接触(会合,討議,情報の開示,打診などで書面によるか口頭によるかを問わない)があること,②その接触が,通常の競争プロセスに反する協力(競争事業者の将来の競争行為に関する不確実性を排除するものなど)を含むものであること,および,③その接触が関係事業者の商業的行動を維持または変更する効果を持っていること,である81』。したがって,イギリスにおける競争法の執行は,積極性があると見て取れるのである。このイギリス裁判所が示した協調行為の条件は,後の事件でも参照されるようになったのであり,イギリスにおける当局と裁判所の積極性が伺える一例である82。そして,Brexit 後も,イギリスにおいては,積極的に競争法が執行され得ると考えられ,イギリスの歴史と伝統から,また先例拘束力の原則 stare decisis といったことから,その独自性を回復していくものと考えられるのである83。さらに,これはイギリス消費者法の研究ではあるが,優れた研究がある。それは分断された消費者ではなく,消費者全体を包含的に包み込んでいく方向性を示唆している84。それゆえ,競争法も,例えば,個々の事業者と消費者といっ81 中村民雄, 須網隆夫編『EU 法基本判例集』p. 286(日本評論社, 2010[第2 版]〔1st.2007〕)82 E. g.: Case No 1188/ 1/ 11 [2012] CAT 31.83 なお,EU 法は,大陸法と英米法のハイブリッドである。加盟国裁判所は,EU 法を適用する際に,欧州司法裁判所に付託したりする。84 菅富美枝「「脆弱な消費者」と包摂の法理(上)イギリス法,EU 法からの示唆」; 「「脆