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概要

kouchirouso_114_20180329

32 高知論叢 第114号済発展を遂げつつある韓国,台湾,中国,さらにはシンガポール,タイ,マレーシアなどの東南アジアにも共通するものとされる。日本では,人口オーナス期に先行する人口ボーナス期(高度経済成長期)に多くの若年人口が大都市に流出した。それに続き,少子化と高齢化が進展したため,経済的な発展のための条件が不利な地域(以下,条件不利地域)では残された住民の少子化と高齢化の進展が著しく,人口オーナス論で取り上げられる問題が先行して発生してきた。しかも,その現れ方は極めて深刻であり,1991年には大野(1991)は,条件不利地域の中でも山村の集落に焦点を当て,これらの集落の一部はすでに消滅寸前の段階にあるとして警鐘を鳴らした。いわゆる限界集落論である。大野は限界集落がやがて全国に広がると指摘して,その対策を求めた。近年になると増田(2014)が「地方消滅」論を公表し,少子化が続けば,896の自治体に消滅の可能性があるとした。これは,全国の自治体のおよそ5割に相当する。経済発展が大きく先行した欧州でも,経済成長とともに疲弊を続ける条件不利地域問題は大きな政治問題であった。このことはEU(欧州連合)に先立つEC(欧州経済共同体)を支えた柱の一つが農業問題であり,80年代には予算のおよそ7割が共通農業政策に費やされていた点によく表れている。経済発展に取り残された農業・農村をいかに支援するかは1958年にEC が設立された当初からの課題であった。その後,1992年にEU が成立するとシェンゲン協定の法制化により人とモノの域内移動が容易になって,周辺部からは人口流出が加速され問題はより深刻化する。EC は1982年に地域開発基金(ERDF),社会基金(ESF)及び農業指導・保証基金(EAGGF)の一部を統合して,構造基金(Structure Funds)とする大改革を実施した。2017年の予算では,この地域政策関係の予算は54億ユーロで,全体予算の37.5% を占めている2。ることを明らかにしている。しかし,これらの分析ではその詳細が割愛されたり(小峰),人口ボーナスの現れ方の違い主たる関心があったり(大泉)で, 条件不利地域の実態に焦点をあせた分析はこれからの課題となっている。2 EU の予算については,EU commission(2016)を参照した。また,地域政策の予算はEconomic, social and territorial cohesion の数値であり,農業などへの直接支払い及び市場関連措置予算はMarket related expenditure and direct paymentsである。