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概要

kouchirouso_114_20180329

ポスト人口転換期の条件不利地域問題 33しかし,欧州の農村が日本の農村ほど深刻な事態に陥ったという話は聞かない。例えば日本と並んで戦後の経済成長を遂げたドイツでコミューン(自治体の最小単位)の消滅が危惧され,その対策が熱心に議論されたかといえば,そのようなことはなかった。また,EU で農業・農村の支援の中軸となっている巨額に及ぶ直接支払いの設計にも,農村コミュニティの崩壊が強く意識されることもなかった。欧州と日本を比較すると,日本の条件不利地域には異次元といってよいほどの厳しさがある。こうした欧州と日本の違いこそが本稿の出発点である。人口ボーナスを享受した東アジアの各国がその後に訪れる人口オーナス期と呼ばれる時期に突入したときにその条件不利地域にどのような問題が発現するか,および,その機構で発生するかの解明が課題である。なお,本稿では,これらの問題は人口オーナス期に発生するものの,その準備過程は人口ボーナス期を含む人口転換のプロセスにあると捉え,ポスト人口転換期と位置づけた。分析の主たる対象地域は,日本,韓国,台湾の東アジア3か国である。いずれも,東アジアで先行して経済発展を遂げた経済圏である。また,ここで取り上げる人口オーナス段階の条件不利地域問題が発現する段階に人口動態が進んでいる点でも共通している。これらの地域の分析から東アジアで今後発生するであろう共通の問題構造を検討する。以下,次節では人口ボーナス論,人口オーナス論やその基礎とされる人口転換論のルーツをたどりながら,その分析の背景や目的さらには理論の組み立てを確認する。これらの議論はこれまで多くの論者が用いる中で議論の厳密性がやや薄れていった経緯がある。したがって,本稿の議論を組み立てる上でその確認は不可欠な作業といえる。3節では東アジアの人口問題が欧州と異なった形で立ち現れてきた要因を検討する。4節では,日本の事例を通してポスト人口転換期の条件不利地域問題の構造を展望する。