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概要

kouchirouso_114_20180329

34 高知論叢 第114号2.人口転換論の系譜(1) 人口転換論及び人口ボーナス論,人口オーナス論人口オーナス問題は,人口ボーナスとよばれる現象に引き続いて生じるいわば対概念である。また,人口ボーナスは人口学でいう人口転換(demographictransition)のある段階で発生する現象として捉えられている。議論は人口転換論→人口ボーナス論→人口オーナス論と展開されてきた。いささか回り道にはなるが,この流れに沿って,それぞれの分析の概要をまとめて,本稿の議論の基礎となる諸概念を整理しておきたい。1)人口転換論まずは,人口転換論である。人口転換論とは,一言でいえば,多産多死から少産少死へと移る過程を定式化したモデルである。この説明には図1で示されるタイプの人口推移図がしばしば用いられる。近代化が始まる前の社会では,出生率,死亡率とも高い水準にあった。多産多死の社会であり,人口構成がピラミッド状になる社会である。出生率も死亡率も高い状況で,両者には一定の均衡が保たれており,人口が徐々に増加する社会であった。近代化が始まるとまず死亡率が低下する。死亡率が低下する要因には,医療の発達や公衆衛生の普及及び生活や栄養水準の向上などが複合的に影響すると考えられている(阿藤 2000、37頁)。また,生活水準の向上は農業革命や産業革命が農産物や工業製品の供給量を増加させることでもたらされたとの指摘もある(Notestein 1945,39頁)。人口転換が始まるこの段階をChesnais は人口転換の局面Iと名づけている(Chesnais 1992,29頁)。この段階では死亡率だけが先行して低下するため,人口の自然増加率(出生率-死亡率)は急速に増加する。この過程は図1の左に示されている。続く局面Ⅱは,出生率の低下によって始まる。出生率の低下の原因のひとつは家族や社会の維持のために高い出生率を維持する必要がなったことにある