ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

kouchirouso_114_20180329

ポスト人口転換期の条件不利地域問題 37おける人口爆発による資源不足をどう解決するかに主たる関心がある。いずれの分析も人口爆発と資源制約の関係に焦点を当てるという意味で共通性がある。人口転換論は,人口学では人口変動に関するグランドセオリーといわれており,基礎理論と呼んでもよい位置づけがされている(阿藤 2000,33頁)。しかし,その一方ではさまざまな批判がなされてきた議論である。これまで述べてきた説明からも理解できるように,人口転換論は史実を整理しただけのものであり,必ずしも理論的な根拠があるわけではない。また,欧州を代表するフランスがこの理論に沿った人口変動をしていない点や移民などの国境を越えた人口動態をも把握できない点も問題視されてきた4。その意味で,人口転換論は普遍的な理論とは言えないとの理解が一般的である。一連の批判にも拘わらず,人口転換論はこれまで生き延びてきている。その理由としては,この理論が多産多死から多産少死への「包括的概念」(阿藤2000,42頁)であること,長期分析を可能にするデータに基づいた分析を可能にすること,そして,総合的で見通しのよい議論を提供できる柔軟な分析枠組みであることなどがある(Chesnais 2000,14-15頁)。人口転換論ではその議論の曖昧さゆえか人口転換の始まりと終わりをどのように定義するかについては,統一的な見解があるわけではない。しかし,この点は人口転換を分析する上で重要であり,議論に整合性を保つためには不可欠である。そこで,本稿では,人口転換論を体系的に整理して発展させたChesnais(1992,14頁)の定義に従って,終始点を次のように定義する。a)人口転換の始まり死亡率の継続的な低下,言い換えれば,高い死亡率に復帰することのない低下傾向が認められた時点5。b)人口転換の終わり5年以上に渡って,自然人口増加率が人口転換以前の水準以下になった時点6。4 批判点については,阿藤(2000,41-42頁)及びChesnais(1992,5頁,14頁)による。5 死亡率が戦争や病気などによってかく乱されているときは,乳幼児の死亡率を用いる。6 ただし,転換前の自然増加率を特定することは必ずしも容易ではない。