ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

kouchirouso_114_20180329

38 高知論叢 第114号2)人口ボーナス論人口転換論が人口爆発や資源枯渇に議論の出発点を持つのに対し,人口ボーナス論は東アジア及び東南アジアの急速な経済発展の分析から始まった。これらの地域では,まず,日本が1950年代の後半から急速な成長をみせる。台湾,韓国,香港,シンガポールがこれに続いて1960年以降に急速な成長を遂げる。さらに,タイ,マレーシアやインドネシアなどが続いた。前者のグループである台湾ほかの4か国は4匹の虎,後者のグループは新興工業国と呼ばれ,これに日本を加えた8か国を世界銀行は高いパフォーマンスを示す東アジア(HPAEs)と呼ばれるようになった7。驚異的なアジアの経済成長の原因を分析した世界銀行は成長の源泉を政府と民間の協力関係や人的資本の形成(教育制度),特定部門に集中した産業振興政策などに求めている。いずれも,経済成長を促した仕組みや制度であり,世界銀行の分析にはこれを他の発展途上国に移植しようという意図がみえる。冒頭のVogel の分析にもこの点は共通している。しかし,こうした見解に対して,Krugman(1994)は厳しい批判を展開した。Krugman は東アジア経済の賛美は,かつてソビエト連邦がスプートニクを打ち上げたときに共産主義が自由市場民主主義より優れているとした発想と同じだと指摘する。ソビエト連邦の急速な経済発展は,主としてスターリンが大量の人的・物的資源を生産に投入した結果であるとする。そして,資源投入の増大が経済成長を主導したという視点は東アジアでも適応可能だと考えた。東アジア及び東南アジアは生産量を増加させたものの,経済効率の成長は乏しく欧米の水準以下であるというのである。この主張を裏づける形になったが,Bloom et al.(1997)であり,人口ボーナス論である。すでに説明したように人口ボーナス論は人口転換論の上に展開されている。再び図1をご覧いただきたい。局面Ⅱでは,出生率の低下が始まる。これに先行して,死亡率が低下し続けているため,出生率がゆっくり低下し始めても当初は死亡率の低下には及ばない。結果として,人口の自然増加率は増7 世界銀行(1994,vii 頁)