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概要

kouchirouso_114_20180329

ポスト人口転換期の条件不利地域問題 39え続け,総人口は増え続ける。しかし,出生率の低下の速度が死亡率のそれを上回ると,自然増加率はピークを過ぎ,人口の伸び率は減少を始める。その後,死亡率がボトムの水準に近づき停滞する中で出生率が減少を続けると自然増加率は急減する8。こうして出生率が急減する前に生まれた子供が労働力となる一方で,就業以前の子供の数が減少する状況が生まれ,人口ボーナスは発生するのである。人口ボーナス期には,多くの労働力が労働市場に参入する一方で,出生率の減少で若年人口(15歳未満)が急減する。こうした変化は年齢別の人口分布をそれまでのピラミッド状から胴の張った樽状に変える。図1では,この様子を生産年齢人口率の変化で示している。生産年齢人口とは15歳以上,65歳未満の人口を指す。人口ボーナス期にはこの生産年齢人口の比率が高まり,生産に投入できる労働力の比率が増大する。他方,15歳未満(年少人口)および65歳以上人口(老年人口)を合わせた依存人口の比率は低下し,これらの人口への教育やケアへの資源投資も低下する。こうしてKrugman が指摘する資源(この場合,人的資本)を生産に集中して動員できる条件が整う。Bloom et al. はこの人口ボーナスが東アジアの経済発展を生み出したことを計量分析によって実証した。この分析では,まず1965年から1990年の間の78か国を対象に生産年齢人口の増加率にさまざまな説明変数を加えた回帰分析を行った。すなわち,国民一人当たりのGDP 成長率を総人口の増加率,平均寿命,資源量,公開性(openness)の指標,制度の質,熱帯に立地するかどうかといった変数での説明を試みた。分析結果からは,国民一人当たりのGDP 成長率は生産年齢人口の増加率が統計的に有意に規定されていることが明らかにされた。また,これらの変数と回帰係数を用いて東アジアのGDP 成長率を分析したところ,東アジアのGDP 成長率(6.11%)のうち3分の1(1.9%)は生産年齢人口と総人口の伸び率から説明された。さらに,この時期の通常のGDP成長率(2.6%)を控除すると,アジアの奇跡と呼ばれるGDP 成長率の半分は人8 局面Ⅰの初期段階で生産年齢人口率が一時的に低下している。これは出生率を維持したまま死亡率が急減するため,年少人口率が増加して依存人口が一時的に高まることを反映していると考えられる。