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概要

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40 高知論叢 第114号口変動によって説明できると結論づけている(Bloom et al 1997,18頁)9。この結論は,まさにKrugman の指摘を実証するものであり,アジアの奇跡への認識が大きく覆されるきっかけとなった。生産年齢人口率の増加は単に労働力の投入量を増加させて生産性を増大させるだけではない。生産年齢人口は将来への備えとしての貯蓄を高める傾向にあり,そのことが貯蓄量を引き上げて最終的には投資額を増大させる。また,年少人口比率の減少は初等教育などの教育水準を引き上げ,人的資本を充実させる。こうした複数の経路によって,経済発展が促されると考えられている(大泉 2007)。しかし,生産年齢人口率の増加がそのまま経済発展に直結するわけではない。社会の制度や教育などの蓄積の条件が整っている必要があり,それに失敗すれば人口ボーナスは実現しない。先に挙げた世界銀行(1994)の分析はそうした発展の条件を制度や政策の観点から詳しく分析したものと位置づけることができる。人口ボーナスの現象については,さまざまな名称が与えられてきた。Bloom etal.(1997)は生産年齢人口率の上昇による経済成長を人口統計学的贈与(demographicgift)と呼んだ。その後,欧米では人口統計学的配当(demographicdividend)の名称が一般的に用いられるようになっている。この現象を人口ボーナス(demographic dividend)と命名したのは,Mason(1997)であり(大泉 2007),日本では,これが広く使用されてきた。人口ボーナスについても,その始点と終点をどう定義するかを明らかにしておくべきであろう。人口ボーナスの分析が進むにつれて,さまざまな定義が提案されており,分析の際に混乱を招きかねない状況にある10。そこで,以下の9 Bloom et alの分析は,経済成長と人口変動との相互依存性についても配慮した分析(操作変数法)を踏まえて,この結論を注意深く導いている。アジアの奇跡の分析に際して,世界銀行もその計量分析を試みている。その分析では,やはり国民1人当たりGDP 成長率(113カ国,1965年-1980年)を教育に関わる変数,人口増加,対GDP 平均投資額などを用いて回帰分析している。ただし,この分析には,Bloom et al. の用いた生産年齢人口は変数とされていない。また, その説明力を表す調整済決定係数も0.3前後の水準にあり,Bloom et al. のそれ(0.8前後)の半分以下である。Bloom et al. の分析の優位性を確認できる。10 例えば,大泉は人口ボーナスを第1と第2に分けて,前者の始点を生産年齢人口率が