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概要

kouchirouso_114_20180329

42 高知論叢 第114号2016,5頁)。欧米では,負担(burden)という表現はあるものの,人口オーナスの問題が盛んに分析されているわけではない。人口オーナス論だけでなく,人口ボーナス論についてもその分析対象はもっぱら東アジアである。また,人口オーナスの議論は,東アジア,とりわけ日本がその分析の中心に展開されてきた。しかし,人口ボーナス・オーナス論は人口転換論の枠組みを見る限り,地域的に限定されるものではないようにみえる。図1でみたように局面Ⅱには,死亡率が低下する一方で,出生率が急速に低下する時期に人口ボーナスを生み出す人口構成が準備される。したがって,人口転換が先行した欧州各国でも,この後に,人口ボーナスが発生し,人口オーナス問題が発現してもよさそうなものだからである。こうしてみると,人口ボーナス・オーナス論が東アジアで集中的に展開されている現状は,図1で示した人口転換の一般論に留まらない特質がそこに存在していることを予測させる。そこで,以下ではまず東アジアにおいて大きな人口ボーナス現象が発生するメカニズムを検討する。また,その後に続く人口オーナス問題を深刻化させると考えられる要因を明らかにする。(2) 人口転換の東アジア的特質1)人口ボーナス拡大のメカニズム人口ボーナスは図1でみたように,局面Ⅱにおいて発生する。この局面の構造が人口ボーナス,そして,人口オーナスのあり方を決めており,欧州と東アジアにはこの局面になんらかの差異があると予想される。そこで,以下では,人口転換が最も早く始まり,Notestein の分析でその転換が日本より40年先行しているとされたイギリスの人口転換と日本のそれを比較しながらこの点を確認してみたい。図2は,図1で示した曲線のうち出生率と死亡率の推移を示している。資料の制約上,イギリスの数値の一部はいずれもイングランドとウェールズの数値である11。また,縦軸は1000人当たりの値であり,パーミル(千分率)の値が表11 図2などで参考にしたフローラ(1987)ではスコットランドや北アイルランドの統計は別掲とされている。この2つの地域は統計の整備が遅れたため,欠損値が多く,本稿