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概要

kouchirouso_114_20180329

ポスト人口転換期の条件不利地域問題 49その後は平等化政策による中等教育の充実などが出生率を押し下げる重要な要因となった。なかでも,急速な経済発展は東アジアに共通する規定的な要因といえる16。この点については,オーシマが経済発展による完全雇用の達成(女子労働への需要の高まり),機械化による年少人口への労働需要の低下,高所得による生活への安心感,教育費の増大などが出生率の激減をもたらしたことを詳しく分析している(オーシマ 1989 第11章)。2)条件不利地域問題を深刻化させる要因[1]都市への人口集中東アジアには,人口ボーナスの規模の大きさゆえに人口オーナス問題を深刻化させる構造がある。生産年齢人口率の急激な低下は,高齢化率の上昇と出生率の低下を伴うからである。これに加えて,北東アジアにはこの問題を条件不利地域においてさらにむずかしいものにする要因がある。そのひとつは都市への急速な人口移動であり,もうひとつは人口密度の高さである。このうち急速な人口移動はやはり経済発展の速度と密接に関係する。東アジアを先頭とした戦後の経済発展は,「東アジアの奇跡」とも呼ばれ,その経済成長の速さが世界を驚かせたことはすでに述べた。この高度成長が可能になったのは,これらの経済発展がいわゆるキャッチアップ型で進められたことに由来する。欧米で開発された生産技術を導入し,国内の土地,資本そして労働力をそこに集中することで短期間での経済成長が可能となった。韓国の経済成長はその典型であり,「圧縮された」経済発展とも呼ばれた17。このことは,また,先に触れた大きな人口ボーナスを生み出す源泉ともなっている。16 以上の点は,阿部(2007,98頁,106-111頁)を参照した。これに関連して,阿藤は戦後の出生率激減の最大の要因として,優生保護法による人工妊娠中絶の合法化を重視している(阿藤 2000,98頁)。しかし,台湾や韓国でも急速な出生率の低下が観察される中で,両国の人工妊娠中絶の合法化が早い段階から行われていない点をみると東アジア全体の視点からみるときこの制度的な要因は限定的に捉えるべきであると考えられる。ちなみに,韓国では経済的な理由による人工妊娠中絶は現在でも認められていない(Kunan2008)。また,台湾では1984年になって合法化がなされており,出生率の低下が始まるより遙かに後である。17 渡辺他(1996)