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概要

kouchirouso_114_20180329

50 高知論叢 第114号このタイプの経済成長では,資源を工業に集中する。先行する欧米から途上国への技術の移転は工業では比較的容易であり,農業ではむずかしいからである。工業の技術は,自然を制御した工場施設内で用いられるのに対して,農業の技術は異なった自然条件の下で適用される。このため,先進国で開発された農業技術の移転には困難が伴う(速水 1986,13頁)。この点は他の一次産業でも同様である。一旦,工業が発展し始めるとその製品は海外へと輸出され,外貨収入が増加する。外貨の増加は自国通貨の価値を引き上げ(円高など),輸入品の価格を引き下げる。同時に外貨収入の増加に応じて市場開放が求められる。このため,海外からの農林業産品の輸入に対する市場開放が進む。輸入の障壁が低下すると,自国通貨高によって労働費用が押し上げられた国内の農産物は市場から締め出されて,農村での就業の場はさらに縮小する。こうして,国内の資本や労働を工業に集中する形での経済成長が進むと成長の中心地は都市部となる。必然的に人口は都市に集中する。図7はこの過程を示している。この図は,人口100万以上の都市に住む人口の比率の変化を東アジアと欧州の各国間で比較したものである。少なくとも1950年代には,人口転換の終えた欧州の国々と日本や韓国の動向に大きな差異は認められない。しかし,その後の東アジアの人口ボーナス期には日本と韓国の都市への人口集中は著しい。日本では100万人以上の都市への集積はすでに7割に近い水準となっている。この過程で,条件不利地域からは若者の姿が消え,工業化の波に乗れない条件不利地域では収益性の高い産業を失って,都市との所得格差は拡大を続けてきた。日本ではここで発生する問題を過疎過密問題と呼び,政府は国土政策上の重要課題と位置づけてきた。また,この問題に対処するため,経済が拡大を続ける人口ボーナス期には都市から農村への大規模な所得移転が行われた。しかし,人口オーナス期に入ると国家財政の逼迫から,条件不利地域への所得移転は減少する。また,条件不利地域に残留してきた人口の高齢化が進行すると,人口は自然減に転じ,人口減少に歯止めが効かなくなる。こうして冒頭に述べた「限界集落」や「消滅自治体」の問題が顕在化する。