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概要

kouchirouso_114_20180329

54 高知論叢 第114号が予想される。そして,こうした特質を生み出した原因をみるかぎり,東アジアに続いて経済成長を続ける東南アジア諸国でも共有される可能性が高い。そこで,これらの問題が実際にどのような形で立ち現れるのかを,日本の条件不利地域の中でも中山間と呼ばれる地域の事例から検討する。日本を事例にするのは,東アジアで唯一人口オーナス期に入った先行事例だからであり,際立った問題が明確に観察できる地域だからである。問題の第1は,地域社会の崩壊である。本章の冒頭から繰り返し述べているように,日本の農村では地域社会そのものが存亡の危機に立たされている。大野(1991),増田(2014)が指摘するように,高齢化と少子化が進展した結果,地域社会そのものが維持できなくなるという事態が予測されている。これに関連して,山下(2012)は大野が1990年代当初に集落の消滅を予測して以来,そのフィールドとなった高知県北部において集落が消滅することはほとんどなく,集落は容易に消滅しないと言及するようにもなった。しかし,近年では大野が限界集落概念を作り上げたフィールドにおいて集落が消滅し始め,集落の構成員が1名以下という集落が急速に広がり始めており,消滅が本格化する兆しがみられるようになっている。明らかに新しい段階に入りつつある。第2の問題は,高齢者のケア問題の深刻化である。高齢者の比率が著しく高まった中山間地域では,独居の高齢者が増加している。中山間地域で高齢者の比率が50% を超える現象はすでに全国的に観察される現象となっている。また,これまで中山間地域や農林業を中心となって支えてきたいわゆる昭和一桁生まれの世代はすでに80歳を超えている。加えて,次世代の家族は多くが他出しており,家族による在宅ケアもままならない。この結果,老々介護と呼ばれる高齢者間の助け合いも例外ではなくなっている。第3の問題は,条件不利地域住民の政治参加問題に関わる。2016年の参議院選挙では2つの選挙区で合区が実施された。東京と地方の間の一票の格差を是正するために,地方の選挙区を拡大して,一票の格差の是正が図られた。農村から人口が都市へと吸い出された後に,農村に残留した昭和一桁生まれ世代人口の減少が始まると,中山間地域の票の減少は著しく,都市と農村の票数格差は増大し,このことが地方の選挙区を統合する合区へと繋がったのである。し