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概要

kouchirouso_114_20180329

ポスト人口転換期の条件不利地域問題 55たがって,合区は,票の空間的分布の変化を象徴しているといえる。農村はいわゆる55年体制の下,自由民主党の一党優位支配を支え,その見返りとして農村は保護されてきた。しかし,農村の票数が減少して農村から選出された国会議員数が減少すれば,この政治体制の維持はできなくなる。今後,選挙区制度の変更が加速されれば,都市-農村の所得移転はますます細り,農村の状況を劇的に変える契機になることが予想される。最後の2つの問題は,自然資源の管理に関わる。その一つは,里山運動に象徴されるコモンズ資源の維持管理問題である。かつて,条件不利地域には共同で利用されてきた財が少なからず存在した。採草地や放牧地などの入会地がその典型的な事例であり,農業用の水路も同様に共同で管理されてきた。これらの資源はその維持に多くの人手がかり,人口稠密な社会を前提としたシステムであった。したがって,このシステムは利用人口が減少すると管理に要する人の手の数が減って資源の維持が困難になる。すなわち,水路の維持のための修理や草刈り,泥上げなどの活動や放牧地を維持するための野焼きなどがむずかしくなる。しかし,他方では,こうした資源の重要性が生物多様性や景観保全の観点から再評価され,そうした活動を維持すべきとの認識も共有されはじめている20。共同で利用する資源が重要であるとの認識は日本に限らない。欧州でもその重要性は認識され,保全運動も展開されている。しかし,日本ではこれらコモンズと呼ばれる資源を支えてきた地域が欧州以上に疲弊して,都市との連携を図らなければ将来の展望が容易でなくなっている実態がある。このことは,生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において,satoyama イニシアティブの国際的枠組みが他ならぬ日本から世界に発信された点によく表れている。資源管理の問題は,共用の資源にとどまらない。私有の資源にも及んでいる。かつての日本の農村の人口分布は稠密であった。このため,その所有面積は小さくしかも入り組んだ所有形態となっていた。農地に広がるこの状態は分散錯圃と呼ばれてきた。状況は林業でも同じである。モンスーン気候の下での高20 これらの資源管理についての詳細は例えば高橋(2011),新保他(2014)を参照