ブックタイトルkouchirouso_114_20180329
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56 高知論叢 第114号い生産力は小さく分割された土地でも人々の生活を可能にしたのである。これらの土地は,高度経済成長に伴う都市への人口の移動の後も,農村に残った昭和一桁生まれ世代により整然と維持され続けた。しかし,この世代の人口の減少が始まると所有権の多くは域外に住む次世代の手に移り,様相は激変する。次世代の所有者の多くは,所有地から離れて居住しており,その現状や利用方法の情報を持たない。しかも,土地の規模は小さく,所有する土地だけでは現代の農業や林業で利用するための最小最適規模に満たないケースが多い。このとき,農業・林業を問わず,団地化と呼ばれる方法で土地を集約する必要が生じる。しかし,所有者間のコミュニケーションは途絶え,多くの域外の所有者は合意形成のための土地情報(例えば近隣の所有者やその所有規模)や経営情報(生産技術情報生産物の価格や費用)も持ち合わせていない。この結果,所有はしているものの,その土地を利用しない状況が発生する。この状況は土地所有権がありながら,利用や管理の実質を欠いていることから土地所有権の空洞化と呼ぶことができる。以上にみるように日本の条件不利地域で生じているポスト人口転換期のシンドロームは東アジアの各地域でも同様に発生する可能性がある。多くの国が,この病理を引き起こす経済発展の様式や人口動態を共有しているからである。ただし,日本では問題が極めて純粋な形で現れている点に留意すべきである。東アジア各国を展望するとき,こうした問題の発生を抑制する要因を少なからず観察できる。例えば,台湾では条件不利地域には多くの原住民と呼ばれる先住民族が居住しており,経済成長時には若者が都市に流出するもののその後還流する動きがある。この結果,地域の人口流出には歯止めがかかり,日本ほどの深刻な問題は立ち現れない可能性が高い。フィールドを踏えた東アジア各国のポスト人口転換期の分析及び東南アジア諸国への分析射程の拡大は今後の課題である。[謝辞]本研究は,科学研究費補助金・基盤研究B「限界集落における土地所有権の空洞化の特徴と対策 モンスーン・アジアの視点から 」課題番号(26292119),および,挑戦的萌芽研究「土地所有権の形骸化: モンスーン・アジア的病理の解明と対策」課題番号(24658196)の成果の一部である。本稿の作成に際しては,松本充郎氏(大阪大学大