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概要

kouchirouso_114_20180329

60 高知論叢 第114号先生が故人となられてからも,関東から九州にかけての優良中小企業の訪問調査を行ってきた。しかしながら,筆者の視角は,国家経済あるいは経済法の観点から,あるいは中心的大都市の視点から地方の中小企業を見てきたのではないかとの思いが,年々強まってきている。筆者がそのように考えるようになってきたのは,かつて本学の教授であられた社会学の大野晃先生によるところが大きいものと考える。先生が,転出される際に,地域のために活発に活動している経営改善普及員のグループを紹介され,それ以降,その方達と地域社会の向上・発展のために地域の事業者の課題の研究を行った。本稿は,かかる研究を取りまとめるための,いわば序論というべきものである。退職記念号で序論とは何か,とおしかりを受けそうであるが,筆者とはそのような人間なのである。ご寛恕願いたい。第1章 中小企業問題の法的諸相……独占禁止法制の視角から中小企業問題を法的に論ずるときに,主要な課題としては,数多く制定されてきたいわゆる中小企業政策立法の分析がある。それらが,いかなる法原理によって,どのような政策目的を,どのような手法で実現しようとしてきたかということが問題となる。中小企業政策立法と言っても,多様な法律を包含しており一概には論じられない。この点において本稿では,次章において,中小企業政策立法を歴史的に概観することにより,この課題を考察する一助としたい。中小企業法を論ずる際にさらに重要な視点は,我が国における戦後経済法制の中心として位置づけられる独占禁止法1からみてそれらがどのように評価されるかということである。本章では,まずこのことから論じることにする。中小企業を法的に論ずる第一の視点は,中小企業の行う共同行為の問題である。それは,中小企業が自主的に行う場合,法律に従って行う場合,行政指導に従って「自主的に」行う場合がある。それらはそれぞれ独占禁止法違反の可能性を孕むものである。不当な取引制限(カルテル)該当性の問題である。1 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年4月14日法律第54号)