ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

kouchirouso_114_20180329

64 高知論叢 第114号大メーカー品でないビールを求める消費者心理があったものと思われる7。英国の独占禁止法制に,より大きな影響を与えたのがガソリンの系列化に関する動向であった。英国におけるガソリン業界では,メーカーとガソリンスタンドとの間に専売契約を結び,かかる契約に付随してさまざまな制約を加えるというのが慣行化した,いわゆる系列化の著しく進行した業界であった。かかる契約は民法上,当然に適法なものとされてきた。しかしながら,我が国における状況と異なり,系列店はより良い条件を求めて多くの私訴を行ってきた8。そして,ついに英国最高裁(貴族院)は一定程度以上の長期にわたるかかる契約を公序に反し違法・無効なものと判示したのである9。この判決によって,民法の教科書は書き替えられ,独占禁止法制も大きく変化することになった。系列化にある事業者の私訴にはこのような力があるのである。筆者が,英国で調査を行ったのはこの判決から数年の時を経た頃である。私の関心は,このような訴訟を行った事業者がその後どうなったか,ということであった。我が国でも,数は多くはないが同様の訴訟のケースはある。訴訟を提起すると,ほとんどの場合,その段階で取引を停止され,多くの場合に他のメーカーからも取引を拒否され,市場を去ることになる。英国の当該ガソリンスタンド(エッソの系列店であった)は,訴訟を続けながら,最高裁でエッソに勝利したあともエッソの系列店であった。(3)下請系列(生産系列)昭和31年に下請代金支払遅延等防止法が独占禁止法の補完法として制定された。同法は,独占禁止法における不公正な取引方法の中核的規定である優越的地位の濫用にあたる行為が,我が国の下請取引に常態化していることに鑑み制7 同様のことは,ドイツのミュンへンにおけるビール調査でも得られたことであった。私のヒヤリングに対してビアホールのオーナーは次のようなドイツの格言で答えた。「ビールはビール工場の煙突の煤が落ちる範囲で飲め」。どこで作られたかわからない大メーカー品は飲むものではないというのである。8 主なものについては,前掲注5の拙稿参照。9 拙稿「イギリスにおける独占規制と公共の利益」経済法学会年報6号