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概要

kouchirouso_114_20180329

我が国における中小企業法に関する一小論 67よく言われる解答は,我が国の下請中小企業の技術力の高さを利用するというものである。筆者も長年にわたり,関東から九州まで様々な分野の優良下請と言われる中小企業を訪れ,その技術力の高さに驚嘆する思いがある。しかしながら,拭えない疑問がある。下請事業者がかくも優秀であるならばそれを何故に自社に取り込む(内製化)をしないのであろうか。優良な下請工場が自社の一部であるならば,競争企業に横取りされる心配もない。このことに答えるためには,下請取引の実態を見ていくしかない。さきに,述べた下請法の違反事例の中にその解答があるのである。わかりやすい事例を挙げる。高知に興味深い事例が存在した(この企業はすでに高知から撤退している)。その企業(A 社としよう)の自社工場(A´)と下請企業(B)が隣り合わせに存在したので,両者の違いが明確にみてとれたのである。その二つの工場A´とB とは,全く同じ製品をつくっているにもかかわらず,次のような相違が存在した。まず,賃金が異なる。A´の賃金はB よりも遥かに高い。その他の労働条件(休日など)も大きく異なった。さらに,景気が後退したときA´では一人の解雇者もなかったが,B にまわす仕事が減少したため,B では多くの解雇者が出た。このように,下請け企業の利用には,低賃金や労働条件の低さの利用,あるいは景気の変動に対する緩衝といった側面が明らかに存在するのである。さらに,下請企業は「無理を聞いてくれる」存在でもある。今日では,有名な大企業の多くが環境問題に取り組んでいるという姿勢を示している。工場見学に行くと一昔前には考えられなかったクリーンな状況に感嘆する人は多い。しかしながら,多くの製品には今なお環境に悪影響を与えなければ製品にたどり着けないプロセスがある。そのプロセスは有名企業の工場見学では発見できない。下請企業が担っているからである。現在では露骨な表現はあまり聞かれないが,下請企業の調査をすると親事業者では「下請と当方とは身分が違う」という本音を聞くことがある。下請法はかかる「身分制」の規制という性格を今なお有しているのである。