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概要

kouchirouso_114_20180329

68 高知論叢 第114号これを地域からの視点で見るとこうなる。下請関係の改善を見なければ,親事業者が少ない地方とは,「身分の低い事業者」で構成される地域ということになるのである。第2章 中小企業政策と中小企業法の展開我が国では,明治期から今日まで国が中小企業政策を押し進め,それに対応して数多くの中小企業立法が展開してきた。ここでは,かかる中小企業立法を史的に概観することにより,その性格を検討し,さらに今日の中小企業,とりわけ地域における中小企業にとっての意義を考察したい。(1)第二次世界大戦以前の経済法制と中小企業我が国の経済法の歴史的特徴として,欧米諸国と比較して戦後に展開される独占禁止法制の萌芽すらほとんど見られないことである11。重要産業統制法の制定(昭和6年),同法の強化改正(同11年),国家総動員法の制定(同13年)という流れは,法の流れが,競争制限から市場統制へと進んでいく道筋を如実に示している。この流れは,同時代のドイツにおける,経済力濫用防止令(1923年),強制カルテル創設法(1933年),ドイツ経済組織的構成準備法(1934年)と続く立法と近似的である。しかしながら,両者の明らかな相違点は,我が国のかかるプロセスがいわば迷うことなく進んでいったのに対して,ドイツにおいては裁判所の判断がかかるプロセスが合法であるか違法であるかがどちらに転んでもおかしくない状況にあったことであろう12。さらに,ドイツのこれらの法律はかなり厳格に手続き法を遵守しているのに対して,我が国のそれは多くは法における権限を背景とした非公式的な行政指導によって法の目的が達成されていることである。こうした性格は戦後にも引き継11 拙著『経済法』(木元錦哉, 吉田省三, 小原範子と共著)青林書院(1986)34頁以下。ただし,私は同書において,従来は全く見られないとされた戦後独占禁止法制の萌芽が,少なくとも私訴として散見されることを指摘した(同書35頁)。12 前掲書32頁以下。