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概要

kouchirouso_114_20180329

70 高知論叢 第114号していた。戦後の経過の中で,国際社会の動向を踏まえながら,独占禁止法制が我が国の経済憲法としての位置を確保していくのである。これを中小企業との関わりで見ていくとまた別な様相が見えてくることになる。中小企業は,明治以来,大企業の補完的存在としての性格が強く,それを背景として中小企業と大企業との支配従属的関係15が維持され,中小企業者間においては先に見た戦前からのカルテル体質が強く残されてもいたのである。このことが,中小企業に関わる法律を複雑化したといえる。すなわち,独占禁止法と矛盾する中小企業立法が行われてきたということである。独占禁止法と矛盾するとは即断し得ないまでも,独占禁止法制の観点からは問題を含む形で,戦後初期から高度経済成長期を通じていわゆる中小企業政策立法が展開していくのである。これらは,金融面での助成措置と税制面での優遇措置とによって中小企業を政策的に誘導するものであるが,我が国の中小企業の体質に与えた影響は大きく,さらにこうした政策が法に基づく手続きと合わせて非公式な行政指導を伴うものであった点が問題となる。終戦後,当然のこととして戦後民主化に対応するために中小企業の自主的自立的展開が求められることになる。しかしながら,当時の中小企業の資金調達の困難さを背景として,中小企業の地位を高めるための中小企業の「近代化」「共同化」を目的として,いくつかの立法及び中小企業支援の施策が採られる。国民金融公庫の設立(昭和24年),小企業共同施設補助金制度(昭和25年),中小企業信用保険法の制定(昭和25年),中小企業金融公庫の設立(昭和28年)設備近代化補助金制度(昭和29年)などである。中小企業信用保険法は,中小企業の信用補完制度として一定の評価をなし得ると考えられるが,総じて行政目的を達成するための誘導的金融制度として機能したと言いうる。その典型的な仕組みを示しているのが,企業合理化促進法(昭和27年)である。これは,間近に迫っている経済自立に備えるために企業に資金提供を行うとともにそれを背景として行政指導を行うという,戦前から,そして,今日に至る企業政策立法の仕組みを典型的に示しているのである。15 正田彬「現代における中小企業と法」法律時報49(2),1977-2