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概要

kouchirouso_114_20180329

2 高知論叢 第114号第1 章 独占放任の時代の営業制限の法理序論第1 節 Nordenfelt Case [1894] 概要19世紀中葉以降,イギリスでは,資本の集中が急激に進んだ時代であった。そのような時代の中で,産業界の要請に応えるように,独占の容認に傾斜した判例が,Nordenfelt Case[1894]であった。それまでの判例は,原則として,時間的にも空間的にも限定のある「部分的制限」とそうした限定のない「一般的制限」を区別して,一般的制限は無効であるとされていた1。当該事件は,トシテン・ノーデンフェルトが,マキシム・ノーデンフェルト会社に与えた一般的営業制限の特約が争われた事件である。トシテンは,1890年9 月19日に,ベルギーの連射砲および火薬の製造業をしていたSociete Cockerill との間で,勤務する契約関係を締結した2。そこで,当該会社は,最初の訴えを,Chancery Division に提起したのである。貴族院(The House of Lords)まで争われた本件の一般的営業制限の特約内容は,次のとおりである。1 Mitchel v. Reynolds(1711), 1 P Wms 181. なお,“P Wms” とは,Peere Williams’English Chancery Reports(1695-1736)の略である。この判例集第1 巻の181に掲載されている。この事件では,「自発的制限」と「自動的制限」とを区別し,大まかに前者を「一般的か」「部分的か」と区別して,後者を①勅許状等(Grants or charters from thecrown),②慣習, ③定款, の3 つに分類して, さらに, ①の勅許状を3 分類している。そのうち, 通常知れわたった営業を独占的開業のために特定の人に対する勅許状は,無効である。なぜならば,それは独占monopoly であり,コモン・ロー上の公序に反しており,且つ,マグナ・カータMagna Charta に反するからである,としている(Ib.p.183)。この事件の詳細は,次の筆者論文参照。松田潤『所有と独占からの営業の自由の考察  英国法理を中心に,日本の営業の自由論争を検証   』(高知大学大学院総合自然科学研究科, 2017?01)pp. 42-44。なおまた,営業制限の法理 Restraint of TradeDoctrineとは,営業譲渡,競業避止義務,雇用契約,再販売拘束,カーテルCartel などかなり広く包含している。個々人が営む広い意味での営業に関して,制限を加えることが,公序Public Policyに反して無効であるとする,判例法理である。2 Maxim Nordenfelt Guns and Ammunition Company v. Nordenfelt, [1893] 1 Ch. D.630, 635. なお,“Ch” とは,「Chancery」の略で,高等法院High Court of Justiceの大法官部 Chancery Divisionの事件である。Supreme Court of Judicature Acts 1873 & 1875により,高等法院のChancery Division となる。それ以前には,大法官裁判所 Court ofChancery があった。