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概要

kouchirouso_114_20180329

76 高知論叢 第114号いは行政指導の根拠法となるのである。制定当時の中小企業基本法において示された政策原理は,中小企業の事業活動の不利の是正のために中小企業構造の高度化を,我が国全体の産業構造高度化の一環として実現していくというものである。かかる政策原理の中では,中小企業が市場構造の中での果たすべき役割,競争秩序の中での競争機能,中小企業の主体性獲得等は焦点となっていない。経済構造の高度化のための中小企業構造の高度化政策を実現するべく制定されたのが,同年の中小企業近代化促進法であった。同法において,主務大臣が中小企業近代化計画を策定し,行政指導を主導していくが,そこで大きな力を持つのが税制上の優遇措置による誘導という古典的手法である。なお,中小企業近代化計画には以下の内容が盛り込まれた。1. 目標年度における製品の性能または品質,生産費,適正な生産規模または方式その他の近代化目標2. 目標年度における指定業種の製品の生産または輸出の見通し3. 近代化の目標を達成するために必要な,設備の近代化,経営管理の合理化,技術・技能の向上,事業の共同化,その他の中小企業の共同化,競争の正常化,取引関係の改善,需要の開拓中小企業基本法は,その後の改正や運用変更において,さまざまな政策価値を実現しようとしている。知識集約化による国際競争力の確保(これは,多くの中小企業においては実現不可能なものと批判された),従業員・労働者の福祉の向上(これも実態とかけ離れているものと批判された),それに消費者の利益,環境保全……。まさに,基本法とは,行政や立法にかかる分野のフリーハンドを与える根拠法でしかない。第4章 地域社会と中小企業我が国において中小企業という課題は,多くは大企業を中心とする産業全体の高度化,あるいは国際競争力の確保等の問題として語られてきた。先に述べたいわゆる「系列」の問題も大企業との関わりで中小企業を位置づけるという