2011年6月21日 高知大学人文学部
はじめに
人文学部国際社会コミュニケーション学科では、2009年度から、グローバル社会の諸問題をより多面的に捉えるため、3つの分野と3つの地域研究を重層的に組み合わせた「プログラム制」による教育を開始しました。
他方で、高知大学では、2012年度から「土佐さきがけプログラム・国際人材育成コース」という教育プログラムの実施を予定しています。
このように、同じ大学でよく似た名称のプログラムが予定されているため、「人文学部国際社会コミュニケーション学科」と「国際人材育成コース」の関係についてお問い合わせが寄せられています。とくに国際社会への関心から高知大学の受験をお考えの方にとっては、進路決定のため、両者の関係についての情報は必要不可欠と思われます。
そこでここでは「人文学部国際社会コミュニケーション学科」(以下、「本学部国際学科」)と「土佐さきがけプログラム・国際人材育成コース」(以下、「新コース」)の関係について、学生・教員・教育内容、そして基本的な理念の相違からご説明します。
1.学生と教員
本学部国際学科と新コースは、あらゆる点で別個の教育課程を備えた異なる組織であり、相互の関係はほとんどありません。唯一の関係は、規定上、新コースの学生が人文学部・教育学部の専門科目を12単位まで履修でき、その規定の範囲内で本学部国際学科の授業を履修できるということです [i]。
本学部国際学科と新コースでは、学生の所属がまったく異なります。新コースの定員10名は、本学部国際学科の定員とは完全に別箇の枠組みで募集されるものであり、入学試験から卒業まで、所属が重なることはありません。
また本学部国際学科と新コースは、教員に関しても重なることはありません。本学部国際学科の教員が新コースの教育に参加することはありません。もちろん新コースの学生は、上に述べたように、12単位を上限として人文学部・教育学部の専門科目を履修でき、その範囲で本学部国際学科が提供する授業を履修できます。しかし制度上、本学部国際学科の教員がこの範囲を越えて新コースの学生を指導することはありません。
2.教育内容
さらに本学部国際学科と新コースでは、教育内容も大きく異なるものになると予想されます。新コースのカリキュラムや具体的な専門科目等は、2011年6月17日現在、いまだ公表されていませんが、新コースが属する「土佐さきがけプログラム」は、「従来の学部・学科等のカリキュラムから独立した」教育プログラムと位置付けられており[ii] 、本学部国際学科とは別個のカリキュラムで教育を行うことが明示されています。
また本学部国際学科が実施している「プログラム制」は本学部国際学科独自のものであり、新コースが属する「土佐さきがけプログラム」とは一切連動していません(本学部国際学科のプログラム制についてはこちら をご参照ください)。
3.教育理念
本学部国際学科と新コースは、とりわけ教育の基本的な理念に関して大きく異なります。
本学部国際学科の教育理念は、文化・社会・政治・経済など多面的な視点からグローバル化を捉え、総合的かつ主体的に判断できる人を育てることにあります。これに対して新コースの目的は、産業の視点に特化した形でグローバル化を捉え、それに順応した国際企業人材等を養成するというものです。
本学部国際学科は、「外国語の会得、異文化への深い理解、グローバル社会に対する批判的考察」を通じて、「幅広い問題意識と視野を持った人間を育成」することを教育の目的として掲げています[iii] 。これは、現在のグローバル社会に必須の語学力や異文化理解を育むことと共に、現状に流されない多面的で自律的な判断力を養うことが重要だと考えるからです。
多面的に思考し自分自身で判断する力を育むには、人文学から社会科学にわたる幅広い教養と、自らが関わる具体的な地域の現実への眼差しが不可欠です。本学部国際学科では、語学および異文化理解の専門的な教育を中心としつつ、さらに人文・社会科学の幅広い分野と、世界の様々な地域に根差した研究に学ぶことができます(なお、こうした総合的な学びが散漫なものとならないように、各学生にとって関連の深い分野と地域の軸を明確化し、主体的で重層的な研究へと導こうとするのが、本学部国際学科の「プログラム制」です――詳しくはこちら を参照)。
これに対し新コースの募集要項では、「日本および世界の産業」が「自国に留まらず世界中に事業を展開すること」を「社会のグローバル化」と捉えています。新コースは、この理解に基づいて「ことばと異文化理解・国際コミュニケーションの実力養成」および「産業のグローバル化に貢献する経済の専門家を養成する」ことを教育の特色としています[iv] 。これらの点から考えれば、新コースの教育は、語学力・コミュニケーション能力・経済の専門的知識を備えた、現時点での産業界のニーズに合わせた人材育成を目指すものと捉えられます。
まとめれば、本学部国際学科の理念は、グローバル化の現実に対応できる語学力や異文化理解と共に、幅広い教養と地域への眼差しに基づいて、その現実を総合的・主体的に捉える自律的な判断力を育むことにあります。これに対して新コースの理念は、産業のグローバル化に順応する能力(語学力、コミュニケーション能力、および経済に関する専門知)の育成に特化することにあると言えるでしょう。
おわりに
以上のように、人文学部国際社会コミュニケーション学科と「土佐さきがけプログラム・国際人材育成コース」は、まったく異なる理念に基づく、別個の教育課程を備えた異なる組織であり、相互の関係もほとんどありません。国際社会への関心から高知大学の受験をお考えの方は、以上のような相違をご理解いただいた上で、進路の決定にお役立てください。