今、時代は世界史的な転換期を迎えています。
グローバル化が進む中、私たちが暮らす世界は、格差・貧困や戦争・難民、気候変動、自然災害、新興感染症等、多くの課題を抱えています。このような中、国連サミットでは2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、官民問わず。様々な取り組みが行われています。また、地球上で人間が安全に生存できる活動範囲を示した「プラネタリー・バウンダリー」が注目されるとともに、地質年代上、人類が地球全体に大きな影響を及ぼす「人新世」の時代と呼ばれるようにもなりました。つまり、近代以降の「当たり前」はますます通用しなくなり、多重的危機を乗り越えられるような新たな解決策が求められています。
一方、最近はデジタルやAI等を用いたイノベーションを通じて解決していこうという流れが強まり、そうした技術を担える理工系の人材育成が強調されるようになっています。しかし、テクノロジーは、自動的に豊かさをもたらすわけではなく、それを用いる人間の態度や社会のあり方によって、その方向性や影響は変わってきます。テクノロジーは、必ずしも万能であるとはいえないのです。また、皆さんは、わからないことや知らないことを、誰かが決めてくれると思っていませんか。エリートだけが決定し、技術・市場だけで解決を図ろうとしても、人間同士の社会関係や人間と自然との関係を問い直さなければ、自ずと限界に突き当たってしまいます。
果たして、人間とは何か。人間と自然との関係はどのような状況か。人間同士の関係や、グローバルな南-北関係はどうあるべきなのか・・・・・・つまり、今日の多くの課題を解決していくためには、人々の思想・行動や、社会・経済の構造、今後の社会の理想像やビジョンを探究することが欠かせません。そして、こうした課題に答えるためには、従来の価値を問い直し、再構築していく人文学や社会科学の力が、これからますます求められています。
とはいえ、こうした力は、既成の知をマニュアル化したものをただ消費するだけでは得ることができません。自分自身で課題を発見し、独自の視座から分析・総合化し、オリジナルな解決策を提示していく知の生産活動を通じて獲得できるものです。そして、こうした知の生産者を育てる役割を担っているのが、大学という「知の共同体」になります。
高知大学は、太平洋に面した四国南部・高知県にキャンパスがあります。高知県は少子高齢化が最も進んだ「課題先進県」であると同時に、山と海に囲まれ、南国特有の自然豊かな明るい土地柄です。歴史的には「自由は土佐の山間より」という言葉が示すように、近世・近代以降は自由民権運動が活発に展開されてきました。戦後も、義務教育における教科書無償化運動や、外来企業による公害への抵抗運動、原発立地をめぐる住民自治、過疎化・「限界集落」と地域づくり等、地域の開発/発展をめぐる議論でも全国をリードしてきた地域でもあります。
このような地域とともに、私たちの人文社会科学部も一緒に歩んできました。本学部の源流は、新制大学誕生時(1949年)の文理学部であり、1977年に人文学部へと改組を行い、1998年には3学科体制へと再構築することで、文系の総合学部として展開してきました。文学や哲学、心理学、歴史学、また外国語やコミュニケーション、比較社会文化、さらには経済学や経営学、法学に至るまで、人文学・社会科学の多種多様な分野が学べることから、全国各地から多様な学生が集まってきました。
さらに、2016年度には、新たな時代状況に対応すべく、人文学部から人文社会科学部へ名称を変更し、従来の3学科から1学科3コースへと改組しました。
現在の人文社会科学部では、学科を1つにまとめることで、学問分野の「壁」をこえて、興味・関心あるテーマを幅広く学べるようになりました。裾野を拡げる幅広い学びと同時に、専門的な学びを深めるために多数の「プログラム」を設定し、1つだけでなく複数のプログラムも選択できるようにしました。こうした学生自身で「学びのコア」を形成するシステムとともに、ゼミナールでのきめ細かな少人数指導を踏まえ、卒業論文の作成を通じてオリジナルな学びを完成させることを、最終目標に設定しています。
転換期の今、中央から離れた周辺部であるとともに、自由な風土を育んできた南国・高知の「知の共同体」の仲間入りをしたい方を、私たち一同、心より歓迎いたします。
人文社会科学部長 岩佐 和幸
掲載日 2022.4.28
2022年4月2日 新入生向けオリエンテーション
大阪府大阪市出身。専門は国際関係論、アジア経済社会論。東南アジアと農業開発が主な研究テーマ。